【No.290】今年の世界経済は減速…粘着インフレか…日銀の政策修正は…

2023年世界経済は米国の物価動向に左右される。物価高が連鎖的に賃金を押し上げ、サービス価格の値上げが続き、1980年代以来の「粘着インフレ」との指摘がある。米連邦準備理事会(FRB)による金融引き締めが一服するのは25年以降との見方がある。世界経済の悪化がインフレを早期に収めるとのシナリオもある。40年ぶりの物価高は分水嶺に来ている。利上げの開始から終了までの期間は過去50年の平均で580日。FRBは22年3月に利上げを始め、290日がたった。金融政策を決める米連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーは23年5月の利上げ停止を見込む。此の通りなら約410日となり、今回は短い方になる。

問題はその後だ。米ゴールドマン・サックスは政策金利が23年度中に5%台まで高まり、25年末時点でも3.5%~3.75%までしか下がらないと予測する。引き締め的な金利水準が少なくとも3年続くことになる。過去半世紀を見てもインフレの早期収束は例がない。注目すべきは「粘着インフレ指数」だ。同指数はアトランタ連銀が医療費や外食費など普段下がり難い「粘着価格」を集めて作ったものだ。上昇率は21年1月の1.7%から11月には6.6%となり、40年ぶりの高水準だ。消費者物価指数(CPI)の中でガソリンや新車など振れ易い品目を集めた物価指数「弾力インフレ指数」は上げ幅を縮小し、粘着指数は加速が止まらない。

物価の上昇が賃上げにつながり、人件費の増加から値上げが相次ぐ。新型コロナ禍によって高齢者が労働市場から退出したため、安定した賃金上昇に戻るにはあと200万人程度埋める必要がある。慢性的な労働者不足も賃上げの要因で、特に飲食や医療などがサービス価格を押し上げる。粘着指数が5%を超えたインフレ局面は過去50年に3回あった。そのうち1970年代半ばのインフレは高止まりしたままとなった。金融引き締めの成功例とされる80年代初頭でも、物価高騰前の水準に戻るまでに2度の景気後退を経てピークから2年かかった。その間、失業率は10%をこえる水準に跳ね上がった。より早期にインフレが納まるシナリオもある。ニューヨーク連銀は足元のインフレ要因の40%を「供給ショックによるもの」と分析しており、エネルギー価格の下落とサプライチェーン(供給網)の回復が進めば物価は落ち着く可能性があるからだ。サプライチェーンのひっ迫度合いを示すニューヨーク連銀の供給制約指数は21年12月の4.3から直近22年の11月には1.2と低下。それでも10年~19年の平均のマイナス0.1を大幅に上回る水準だ。インフレの回復には供給網の回復も焦点で、ウクライナなどの地政学リスクが大きく影響する。

国際通貨基金(TMF) などは欧米の利上げで2023年に世界景気が急減速すると予測する。米原油先物はすでに世界景気の悪化を織り込み、22年3月に付けた1バレル130㌦台から約40%下落した。コロナ感染が深刻な中国の景気が大きく失速すれば、一段と資源安が進む可能性もある。実際に80年代の米国の物価下落は80%が石油価格の下落によって起きたと内閣府は分析している。

インフレが収まらず金融引き締めが長期化しても、中国の失速で資源安を通じてインフレが終息しても米国や世界経済への打撃は大きい。悩ましいことに、世界を覆う目下のインフレが複合的で金融政策の効果が及ばない部分が大きいことだ。国際市場でのエネルギーや食品の値動き、供給網の混乱や非労働人口の増加などは、国内・域内の需要のように金利調整ではコントロールできない。金融引き締めは時間差で経済を減速させ、物価を押し下げる。多くのエコノミストは景気失速を予想する。インフレ抑制のための利上げの継続で欧州は2020年10~12月期に、米国は23年4~6月期にマイナス成長に陥ると予測する。日本経済はどうか。物価上昇は食品等の広がりから決して一過性ではない。11月の消費者物価指数に上昇率は前年同月比3.8%と40年11月ぶりの伸び率を記録した。賃金が伸びない中で物価高は消費減に直結する。デフレから脱却し、安定的な物価上昇を目指す政府・日銀にとってダメージは大きい。急激な円安・ドル高進行に危機感を抱いた政府・日銀は24年ぶりに円買い・ドル売りに踏み切った。1月12・13日で買い入れ額は10兆円を超えた。日銀の政策修正はあるか、18 日の決定会議で長期金利の引き上げは見送られた。次は3月。

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