【No.294】金融危機は繰り返す…破綻からの教訓とは…

3月10日の米シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻から始まった金融危機は欧米に飛び火し、日米欧の中央銀行はドル資金供給など緊急対応に追われた。グローバル化が進んだ30年、何度も繰り返された。

  1. 危機は常に小さな問題から始まる。SVBは流動性(低金利だが短期貸し出しを想定した融資で長期債を買い入れていた)と金利変動(長短金利の逆転で損失がでた)に大きなリスクを抱えていた。固有の問題で銀行システム全体の弱さからくるものではない。(FRBパウエル議長2023年3月)。サブプライム(信用力の低い個人向け融資)問題が住宅全体に及ぼす影響は限定的で米経済や金融システムに大きく波及することはない。(バーナンキFRB議長2007年5月講演)。2008年のリーマン危機も発端はサブプライムの「限定的」な問題だった。日本のバブル崩壊危機も最初は銀行系列のノンバンクだった。
  2. 預金全額保護の攻防。当初銀行預金の全面的な保険や保証は検討していなかったが、預金保護のため追加的な措置を講じる用意がある。イエレン米財務長官の発言。預金保険の上限を超える大口預金が9割を占めるSVBの預金は特例で全額保護したが、モラルハザード(倫理の欠如)につながりかねない預金の全面保護にはなお慎重だ。日本のバブル崩壊後も同様の議論があった。1994年東京都の東京協和と安全の2組合の経営破綻。日銀は民間と共同出資の受け皿銀行を設立し、大口預金も全額保護した。だが乱脈融資をした信組の大口預金者の保護は世論の強い反発を招いた。結果、時限的な預金保護の法改正が実現したのは1996年だった。
  3. 公的資金の投入の是非。バイデン大統領はSVB破綻処理に税金は投入しないと強調した。日本でも1995年末、大手銀の系列で不良債権をはらませた住宅金融専門会社の損失処理への公的資金投入に国民の怒りが沸騰した。米国の前回の金融危機でも公的資金の議論が進んだのはリーマンが破綻し世界に危機が波及してからだ。公的資金を封印した当局に残された手段は中央銀行の資金繰りの支援と、奉加帳や救援買収などの民間支援だ。前者についてFRBは新たな緊急融資枠を設定した。後者では米中銀ファースト・リパブリック・バンクは、大手銀行11行から預金支援を受け、地銀による救援買収が決まった。欧州でもクレディ・スイス・グループが、政府の指導でUBSに救援買収された。

歴史は繰り返すように見えるが、今回の危機は過去と異なる。A、金融政策と物価環境は過去30年の金融危機では中央銀行は金融緩和で火消しに動けたが、今回は40年ぶりのインフレとの戦いの最中。SVB 破綻直後に米欧は利上げを継続していた。B、グローバル化の変質、物価と金利が低位安定する時代が終わり、低金利を前提としたビジネスが成り立たなくなる新局面を迎えている。さらに米中対立やウクライナ危機など地政学リスクが高まり、国際協調も危うい。C、デジタル化の進展、デジタル化は金融にビジネスチャンスをもたらすと同時に、新たな危機も呼び寄せた。「デジタル・バンクラン(取り付け)」だ。SVBの経営悪化の情報はツイッターなどのSNS(交流サイト)で拡散され、預金流失量は1日で5兆円を超えた。パウエルFRB議長は預金取り付けのスピードは前例がなく、規制や監督を変える必要を認めた。

SVBの教訓、①個別株はリスク、たとえ長期米国債でも額面価格を大幅に下回る時価での購入はリスクだ。額面価格の担保評価であれば下落しても危機は回避されたはずだ。安全である米国債だから②多くを銀行に預けていたことも裏目に出た。さらにSVBは特に③金利に敏感な投資家(ハイテク起業家や暗号資産家)に注力して掛け金を積み上げていた。その為ブームに大量流入した預金が一気に流出した。

IMFによれば2023年の世界の成長率は2%割れも視野に入る。景気後退の不安が現実味を帯びてきた。4月には銀行破綻の事態はないが、銀行の貸し渋りで景気に悪影響が出る懸念は拭えない。最悪を想定して危機に備えるのが経営だ。企業や金融機関は自社が抱える債権リスクを総点検する時期に来ている。

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