【No.295・296】AIの進化が…人類の真価を問う… ArtificiaI Intelligence

◎人工知能(AI)の進化が人間をしのぐほどの高度な言語能力を獲得した。そして幅広い知的作業を担い始めた。人類は「自らより賢い存在」となりつつあるテクノロジーと、どう向き合うか。米国の政治家が民意を把握する重要な情報の一つがメールだ。しかしその支持者から届く言葉を書いたのがAIだったとしたら。歴史学者ユヴァル・ノア・ハラル氏は著書で人類が地上の覇者となった理由に「比類なき言語」を挙げている。今やその特についてもAIが急速に発達し、人類が築いた聖域に足を踏み入れた。新興オープンAIが昨年11月に公開した「ChatGTP」は、高度な対話能力を備え、世界の利用者は2か月で1億人を超えた。優れた性能が喝采を浴びた当初とことなり、いまでは「鋭すぎる利器」へも警戒が高まる。偽情報の生成やサイバー犯罪への悪用が危惧され、規制論も台頭し始めた。米ゴールドマン・サックスは3月、チャットGTPなど生成AIと呼ぶ技術が世界経済に及ぼす影響は、普及が進むと生産性が向上し、世界の国内総生産(GDP)を7%押し上げると予測する。テクノロジーは過去にも人間のありようを変えてきた。米インディアナ大学の推計では126の専門職の内、開業医やマーケッティング専門家、翻訳家など75%に相当する95職種はチャットGDPにより多くの業務が代替される。工場勤務者や小売店員の5%~9%より格段と高く、幅広い知的労働で雇用が減少につながる可能性がある。AIの進化が問うのは、人類の真価だ。現代思想に詳しい石田英敬氏は「もっともらしく見えるAIの答えを疑う態度が重要だ」と指摘する。高度な知能を持つAIが登場した今こそ、変化に対応する思考力が求められる。

◎精巧な虚構も生成するAI、現実に起きた事象だと脳が錯覚を起こす。精巧な偽画像が社会にあふれる。米中対立のはざまで揺れる台湾で、SNS(交流サイト)で偽情報があふれる。多くが中国大陸からで、台湾で年間数千万件ものファクトチェックをてがけるIORGの共同創業者の游氏は、AIが大量の偽情報を生成し、人間の不安心理をあおることができると警告する。2023年米調査会社ユーラシアグループは10大リスクに「大混乱生成兵器」としてAIを上げた。国際調査会社イプソスによるとAI企業を信頼する人はフランス34%、米国35%。中国76%など差があり、日欧米で不信感が強い。虚実混交する現実でAIが人間の意志決定を支配するのか。富山大学の佐藤裕教授は「既存情報に沿っているに過ぎず、正解だと考えるのは錯覚で危うい」と強調する。事実「AIに株価を予想させようとは思わない」と米ゴールドマン・サックスでAIの運用部隊を率いる諏訪部氏は断言する。AIで運用するヘッジファンドの成績を指数化したエウレカヘッジの指数は、17年末から23年2月までの上昇率は12%。米国株のS&P500種株価指数の50%上昇に比べて見劣りする。判断は再び人間へ、金融で揺り戻しが起きている。IORGの游氏は情報判断力を学生時代から鍛える重要性を訴える。東京工業大学の笹原准教授も偽情報を作る体験を通して騙されやすさに差が出るという。何が正しくて、何が間違っているか―判断力を磨き直すことが問われている。

◎人工知能を備えたロボット「まほろ」が理化学研究所の施設で2本の腕を器用に動かして作業をする。扱っているのは人の細胞だ。すでにからだのあらゆる細胞に変化できるiPS細胞から目の細胞を作ることに成功している。最適培養条件を見つけるのに優秀な研究者でも1~2年かかるが、120日で成し遂げた。「まほろ」が作る目の細胞は、再生医療の臨床研究で患者に移植される予定だ。細胞培養を優秀な研究者に頼ると他者が再現できないが、AIは再現性も担保する。東京大学の伏信教授はAIの威力に衝撃を受けた。英ディープマインドが開発した「アルファーフォー2」が、同教授が6年かけて探求したたんぱく質の立体構造を簡単に提示し、さらにそれが導きだしたたんぱく質の構造は人間や動植物などが持つ2億種以上にのぼる。その進化の速さとボリュームに驚愕したと打ち明けた。それでも科学者は研究の速度を増すAIを使いこなす競争に入った。米カーネギーメロン大学はAIを使った自動実験室を扱う専門の修士課程を設けた。自動化された科学の新たなリーダーを育てる優秀な助手となったAI。自らの仮設を立てて実験し、データーを分析して法則を探す科学者の営みを代替できるだろうか。理研が研究者の創造的な研究までの工程を7段階に分けてAIの自立性を評価すると、現在のAIは初期のレベル2~3に過ぎない。過去のデーターから答えを導き出すのは得意だが、手段や発想の自由をあたえると途端に動けなくなる。19世紀に従来の常識を覆す進化論をとなえたチャールズ・ダ-ウィンは、自説さえ捨て去る精神の自由を求めた。過去のデーターに縛られるAIは飛躍し創造性を獲得できるのか、人間にはまだ1日の長がある。

◎人と戦うロボット、AIは兵器のみならず戦略も変える。相手の兵士をロックオンすると、人工知能が400m先の群衆の中から自動感知する。標的の動きや風速を計算して照準が追尾し、後は引き金を引くだけ―イスラエルのスマート社が開発したAI銃。無人航空機(UAV)に取り付け、複数の武器をネットワークでつないで狙い続けることも可能だ。米国やインドなど15カ国が導入している。国連は自立型致死兵器(LAWS)の危険性に触れ、リビアの内戦で使われた可能性を指摘している。ウクライナ侵攻でもAIを搭載した兵器が使用されている。さらにAIは戦略をも変える。米軍はアマゾン・ウエブ・サービスなどと組み、陸・海・空・宇宙の部隊の情報を統合するAIで戦略を立案する。米AI国家安全保障委員会ではAIの開発競争は半導体技術が左右すると指摘し、現状のままでは中国などに主導権を握られると警告する。特に中国の強権体制は開発を進めるうえで、法規制や社会倫理に縛られる民主主義国より大きな優位性がある。自立型兵器の市場規模は2030年には301億ドルに上り、10年で2.6倍に拡大する。2月オランダで開かれた初のAI兵器の規制会議で同国の外相が米中など50カ国の参加者にルール作りの必要性を訴えた。米政府はAI兵器に関する説明責任などを盛り込んだ宣言を発表した。AIの開発競争はその主導権争いで、遠くへより一層進化することを推し進めるが、競争の激化で抑制が効かず道を外す危険性もはらんでいる。

◎AIが進化する中で人が学ぶべきものは何か。これからは幼少期からAIが身近な「AIネーティブ」が社会を担う。すでに答えがある問題はAIで対処できる。知識の暗記と再生のうまさを評価する教育は意味をなさなくなる。佐藤俊一元山形大教授は「疑問を持つことは人間しかできない。課題を見つけて問いを立て、定まった正解がない中で最適解を模索する。『探求型』学習への転換が急務だと訴える。AIを使いこなすには人も能力を高め続けなければならない。世界ではチャットGDPを高度な作業に利用する技能「プロンプトエンジニアリング」を習得する動きが拡大し、国内のビジネス現場でも体制作りが急ピッチで進む。新入社員の研修でAIを使う際の基礎的素養や注意点を学び、今はない画期的なサービスの創出や急速な環境変化に対応するために、AIの力を自ら感じ、使いこなすことが期待されている。史上最年少の13歳11か月でタイトルを獲得した仲邑薫上流棋聖は「AIが示す手だけ打っていても失敗する。自分に棋風にあった手を打つのが一番大切だ」と語り、国内第一人者の井上裕太王座も「AIをどう自分なりの手に落とし込むかが大事」と強調する。進化するAIのなかで人間が何を学び、人づくりの未来にどう生かすか答えはまだ見出せない。

◎今後のAIの安全対策は、米国バイデン政権は5月4日AIを巡る政府方針を発表した。安全性を確認する基本的な責任は企業にあると明確にした。対対話型AI「ChatGPT」を開発した米オープンAIはもとより主要4社(マイクロソフト・グーグル・アマゾン・メタ)のトップに直接要請する。同時に研究開発を後押しするため1億4000万㌦を投じ、AIの国立研究機関を7つ立ち上げる。政府方針は「責任あるAIイノベーションを推進する新たな行動」と題して企業は製品を展開する前に安全であるか確認する基本的な責任がある。」と明記した。米政府高官は管理すべきAIのリスクについて、

  1. 職場などの偏見の助長
  2. 偽情報などの拡散
  3. サイバーセキュリティー…

などを例示した。AIのサービスの安全性は政府・企業から独立した仕組みで評価する。またAI研究の国立機関を計25に増やし政・学・産が協力する。総額で5億㌦の資金を提供する。EUでも「GPTの新しい技術は危険な存在だ。どれほど規制しても、社会にリスクをもたすことは忘れてはいけない」適正な規則で市民権を守りつつ、技術開発は妨げない。世界に先んじて規則を進める欧州連合は生成AIの出現で、そんな困難な局面に直面している。AI産業はルールづくりの力と技術開発の力が相互に作用しながら発展する段階に入ってきた。

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