【No.298】安い賃金ニッポン…人材雇い負け…投資拡大・賃上げで復活なるか
2023.7.20
30年ぶりの日本経済の復活が相次いでいる。30年以上にわたって賃金が伸び悩んだ「安いニッポン」がやっと転機を迎えている。女性やシニアの労働参加が頭打ちになるなか、アジアとの経済格差の縮小は外国人労働力の供給を細らせる。あらゆる産業で労働需要が供給を上回る人手不足が到来し、賃上げ圧力を強める。インフレ下で2023年春闘は5月の集計では賃上げの加重平均は3.67%と約30年ぶりの水準だ。
総人口は2008年をピークに減少に転じた。就業人口は2019年の6,750万人までは上昇を続けた。2008年以降、女性は約360万人、シニアは390万人増え就業者の伸びを支えてきた。そして今まで賃金上昇を抑制してきた女性やシニアなどの安い労働力は枯渇する。主因は少子高齢化だ。リクルートは3月、経済成長をしない場合でも、2040年に約1,100万人の労働者が不足すると予測する。建設職の不足率は22%。修繕が出来ず道路は穴だらけで移動時間が増える。保健医療専門職の不足率は17.5%。病院で診察に長蛇の列ができる。何も対策を打たないと衝撃的な未来が待ち受けている。
消費者に占めるサービス価格の割合は5割。原材料価格の変動を受けやすい食品などに比べて、人件費の割合が高いサービス価格の上昇は欧米に比べて抑えられてきた。これも日本がデフレから脱却できない一因だった。今回の賃上げで、物価高のけん引役が財からサービスに移った。もっとも不足感の強い宿泊・飲食の雇用では大幅な賃金上昇が続き、賃上げに追いつけない体力のない企業はふるい落とされる。
国内で働く外国人労働者は2022年182万2700人就業者数の3%に達した。製造・小売り・サービスまで外国人の働き手なしで現場は立ち行かなくなる。賃金上昇が遅れてきた日本の職場は魅力が乏しくなった。最大の労働者を送り出すベトナム、2022年度GDPが8%成長した。平均月収が12%増した。現地給与が日本給与の50%を超えると見られる。50%は生活費などから考えると日本に稼ぎに来るうまみが薄れる水準だ。またインドネシアで実施した特定技能人材向けの試験は募集人数2,000人に対して10%に満たなかった。それどころか日本人も流出している。各国は優秀な人材を確保する賃上げ競争に走る。2022年度高度人材の平均年収を主要国で比べたところ、米国は19年比約16%増の19万7281㌦(約2,680万円)で、中国は14%増の11万5615㌦。日本は円安の影響もあり6%減の8万7595㌦だった。海外企業からすれば日本の優秀な人材を安価に採用できるチャンスだ。賃金の国際上昇力の低下は外国人材を確保できないだけでなく、国内の人材すら取りこぼしかねない事態を引き起こす。
リクルートによると、2040年に東京都以外の道府県で労働供給が不足する。不足率は最も深刻な京都府で39.4%に達する。日本人1人当たりの労働生産性は約8万1,500㌦と経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中29位に沈み、1970年以降で最低の順位だった。パーソル総合研究所(テンポスタッフ)は2030年に644万人の労働力不足を予測する。また4.2%の生産性向上で298万人の労働力不足を補えると試算する。人材教育や設備投資を通じた自動化の推進などが生産性向上の柱だ。ローソンでは地方の人手不足を解消に「グリーンローソン」を11月オープンした。画面に映し出されたアバター(分身)が客を出迎える。遠隔地にいるオペレーターがウエブカメラ越しに客の様子を確認しながら操作し、お薦め商品やセルフレジの使い方を教える。同社は1千人のオペレーターを育成する考えだ。ネット通販の成長で年間約50億個の宅配に追われる物流業界も自律走行搬送ロボット(AMR)が倉庫で作業員と協働し、荷物のピッキングの効率を2倍に高かめる。7月日銀短観で2023年度の設備投資計画は大幅な伸び率となり、今春の賃上げも30年ぶりの高さだ。企業が設備投資だけでなく人的資本にも投資する姿勢が強まった。インフレが投資を喚起し、企業経営の効率改善にまで影響を及ぼす好循環が生まれつつある。設備投資計画や賃上げなどリスクテクの姿勢が明確になった日本企業が、アニマルスピリットを取り戻し成長に舵を切る変革が期待できる。