【No.311】乱高下する日本株…原因はファウンド…円安と株高両立の終焉

日本株急落が世界を揺るがした。日経平均株価が最高値圏から一気に、8月5日に1987年のブラックマンデーを超える下げを記録した。その背景には日本市場の弱さがある。7月末に日銀が利上げに積極的な姿勢を見せた。2日発表の米雇用統計は予想に反し景気後退の懸念を生んだ。この二つで米国市場は週明け投資家の強力な売りが膨らむことは想定できた。5日の急落は取引直後から前週末比20%安となり、兆円単位の価値が一瞬で消えた。全上場銘柄の2割相当の約800社が制限値幅のストップ安まで下げる異常事態だ。保有株を売れなくなる恐怖が更なる売りを誘う。ファンド勢は低金利の円を借りて投資資産を買っていた。円売り、日本株買いは人気取引の一つ、それも日銀が慎重に金融正常化を進めるのが前提だ。更に日銀が早期の追加利上げを示唆した。これもファンド勢には想定外だった。7月に1㌦161円台をつけた円相場は8月5日141円台まで円高となる異常事態で、ファンド勢は機械的に持ち高を落とした。

投げ売りの主体は、レバレッジ型の投資信託だ。上昇局面の先物で買い相場の2倍の値上がりを目指す。個人の購入した資産が膨らんでいた。反作用で急落局面では大量の先物売りが発生し、5日午後には推計5千億の売りを出した。日経平均の下落幅は4,451円を超え史上最大の下げとなった。日経平均は急落の翌日6日最大の上昇幅3,217円を記録した。経済の正常化なしに持続的株高は実現できない。日本企業が経営改革に取り組んでも、市場が投機的と思われれば長期マネーは入りにくい。世界の主要株価変動率を比較すると、日経平均は8月16日時点で年率41%と突出して高い。時価総額は970兆円と世界3位だが、値動きは新興国より荒い。日本株クラッシュを生み出した背景は、世界の収益機会を求めて瞬時に移動する「ホットマネー」の存在がある。08年のリーマン以降金融機関の投資行動に規制がかかり、市場の流動性を提供する役割はヘッジファンドが存在感を増した。今回の下げはCATと呼ぶ順張りファンドが円高反転で株高シナリオが崩れ、取引解消を急いだため。ホットマネーが資金を引き揚げると、割安な水準に下がるのを待っていた長期投資家が株価を下支えする。今回の売られすぎた日本株に追加投資したのは、逆張りのW・バフェット氏だ。日本株最大の投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は9割以上をインデックスで運用する。日本株に投資する公募投資信託のうち約9割以上が指数連動のインデックス運用が占める。市場参加者が個別銘柄を選別しない投資ばかりだと株価は一方向に動きがちだ。

異なる相場感覚を持つ多様な投資家が参加してこそ、市場の価格発見機能は強まり株価は安定性を増す。長期投資家を呼び込むためには、日本企業が自らの価値を磨き投資の魅力を高めることが求められる。 今年から始まった新NISAもあり、個人マネーが日本株に戻り始めた。日増しに参加者が増えるなか、今回の未曽有の急落に見舞われた。急落場を含む週の売買額は手元資金で売買する「現金」取引と、資金や株を借りて投資する「信用」がともに売り越しだった。信用取引で保有する株の評価額が大きく悪化すると、追加で証拠金を入れる必要がある。今回の信用取引は3,581億円を売り越す一方、現金取引では3m027億円を買い越した。相場に動じない新たな個人の投資行動が見受けられる。

個人が投資に目を向けるのは将来への不安が大きいためだ。金融庁が19年に示した老後の生活に2,000万円が必要との試算は物議を醸した。物価高の長期化で円は価格低下。多くの人が投資について真剣に考え始めた。個人に機関投資家のような運用期間の縛りはない。今回も8月6日以降の株価の急反発を下支えした。リスクを取れる個人が増えれば、日本株市場の安定感を高めることにつながる。株価の動きも焦点は米国経済の軟着陸にあり、実態経済が大きく悪化しなければ、日本経済への打撃や日経平均への大幅調整の動きは低まる。円安という補助エンジンでは株価の軌道修正は出来なくなった。140円前後で業績を圧迫される経営者はいるが、家計や中小企業に打撃を与える円安が是正を求められる可能性も高い。

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