【No.313】米軟着陸は可能か…連続利下げは…トランプ氏の強力インフレ
2024.11.30
米連邦準備制度理事会(FRB)で2会合連続の利下げを決めた。物価高を抑えながら堅調な経済も維持する「軟着陸」を狙ったものだ。一方5日の大統領選では、経済の「再建」を訴えたトランプ前大統領が勝利した。FRBが重視する指標から見える経済の姿と、有権者の体感の落差が鮮明になった。2022年6月に前年同月比9.1%を記録した米消費者物価指数(CPI)の上昇率は直近9月には2.4%まで低下。FRBはインフレの重心を、退治から雇用・景気への目配りに移した。FRBのパウエル議長は7日の記者会見で、「インフレ率が今後数年かけて物価目標の2%に落ち着くというストーリーには一貫性がある」と自信を示した。パウエル氏は「米経済は強い」とも語った。7月~9月期の個人消費は前年比3.7%増、失業率は一時より悪化したものの、歴史的にはなお低い4.1%で、FRBが描く軟着陸シナリオは維持されている。先進国で一人勝ちに見える米国経済だが、実際には人々の受け止め方は異なっている。
6月の英紙の世論調査では、米国人の半分以上が経済情勢を「不況」と回答した。米CBSによる大統領選の出口調査でも、3人に2人が米経済の現状を「悪い」と答え、その多くがトランプ氏に投票した。最大の不満はインフレだ。出口調査では、インフレが生活の苦難になったとする人は75%に達した。
トランプ前政権に比べて新型コロナ禍後の経済の混乱などにより、バイデン現政権下で卵は2倍、ガソリンは1.7倍など生活必需品価格が大きく上昇。物価の上昇率は落ち着いてきたが、物価水準は下がっていない。パウエル氏はこのことが暮らしを圧迫し続けるとし、体感経済の向上にはインフレを上回る賃金上昇が数年続くことを求めた。
米連邦準備理事(FRB)は7日、米連邦公開市場委員会(FOMC)を開き0.25%の利下げを決めた。利下げは前回の9月会合から2回連続となる。景気の減速に備え、金融引き締めを緩める必要があるとし、米大統領選の影響は短期的にはないと判断した。今回のFOMCは共和党のトランプ前大統領の返り咲きが確定した直後に開かれて追加利下げを決定した。市場は今回の利下げをすでに100%決めていた。
記者会見したパウエル議長は「選挙が近い将来に政策決定に影響を与えることはない。」とした。私たちはあらかじめ決められたコースを歩んでいるわけではない。今後も会議を重ねながらその都度決定していくと、経済データー次第で利下げペースを決める姿勢を強調した。
高インフレは概ね落着きつつある。9月の消費者物価上昇率は前年同期比2.4%で市場予測を伸ばしたが、8月の2.5%からは鈍化した。FRBが重視する雇用コスト指数は7~9月期に前年比0.8%上昇し、21年4~6月期以来の小さな伸び率だった。新型コロナウイルス禍後の経済回復で生じた過度の人手不足がおさまり賃上げが物価を押し上げる力が弱まっている。パウエル氏は「勝利宣言をするわけではないが、今後数年間インフレ率がデコボコしながらも2%前後で落ち着くというストーリーは非常に一貫性があると感じている」と自信を示した。
今後のリスクは25年1月に発足する第二次トランプ政権が打ち出す政策にかかってくる。エコノミストの多くがトランプ氏の公約に掲げた高関税や減税が今後インフレ率を再び上昇させるリスクを指摘する。
想定されるインフレ再燃への経路はトランプ氏が主張する政策
- 関税引き上げ、輸入業者が販売価格に転嫁し短期的な再燃
- 減税継続・拡大、景気浮揚・過熱、中期的な再燃
- 不法移民対策、人手不足・賃金上昇、長期的な再燃
市場は米国債売りを通じて長期金利が上昇しないよう、警鐘を鳴らしている。パウエル氏は会見でトランプ氏から辞任を求められた場合、自ら辞任することはないと明言した。解任や降格も法律上、認められていないと否定した。トランプ氏の財政刺激策に加えて利下げが続けば過剰に物価を押し上げる。国債売りを通じ長期を抑えるよう対応を迫られている。米軟着陸はストーリー通りとなるか、見通しは困難だ。