【No.283】人類史に迫りくる…初の人口減少..繁栄への転換は

世界の人口は200年間に急増したが、経済発展による教育の普及や雇用均等化などで女性の社会進出が進み、世界は低出産社会に転換しつつある。産業革命を経て、人口増を追い風に経済を伸ばし続けた黄金期は過ぎた人類は新たな繁栄の方程式を模索する。

世界人口は2064年の97億人をピークに減少する。米ワシントン大学は20年7月、衝撃的な予測を発表した。50年までに世界195カ国・地域のうち151が人口を維持できなくなる。国連は「2100年に108億人となるまで増え続ける」と試算していたが、出生率が想定以上に落ち込む見通しだ。30万年の人類史で寒冷期や疫病により一時的に人口が減ったことはあるが、初めて衰退期がやってくる。ワシントン大のクリストファー・マレー保健指標評価研究所所長は出生率が回復しなければ、「いずれ人類は消滅する」と予言する。

危機は目前にある。1960年代後半に世界の人口増加率はピークの2.09%に達したが、2023年には約80年ぶりに1%を割る。17年には世界の生産者人口(15~64歳人口)の増加率が1%を下回り、既に世界の25%の国で働き手が減り始めた。中国は来年にも人口減が始まり、2100年には現在の14.1億人から7.3億人に減少するとワシントン大学は予測する。同じ年に日本など23カ国の人口が半分以下に縮小する。「米中の国内総生産(GDP )は逆転しない」とウイスコンシン大の易富賢氏は予測する。複数の調査機関は2030年前後に中国のGDPが米国を上回ると試算するが、易氏は中国の人口統計が1億人水増しされているとしてGDPの逆転は起こらないとみる。新型コロナ禍が退潮に拍車をかける。20年の日本の出生率は雇用や医療などの不安が広がり、前年比3%減の84万人と1899年の調査開始以来最少。米国も361万人と41年ぶりの低水準だった。米ブルッキングス研究所は「失業率が1㌽上がると出生率は1%下がる」と分析する。人口は繁栄の基盤だった。1800年の英国は産業革命により経済成長と食料の大量生産を実現し、医療衛生環境の改善もあって、100年後に人口を約4倍に増やした。英国が世界に覇権を広げる原動力になった。1800年には約10億人だった世界人口は今や78億人。人口が爆発的に増えたのは人類史上で直近の200年間だけだ。急膨張した人類は、破綻を危ぶんだ。ローマクラブは1972年、人口増と環境汚染で100年以内に「成長の限界」を迎えると警告している。流れを変えたのは、先進国はもとより発展途上国でも進学率が上がり、それに反比例して出生率が低下した。女性が生涯生む子供の数(合計特殊出生率)は17年現在で2.4と人口が増えなくなる2.1の目前に迫っている。人口減時代は新たな難題が待つ。人口増が前提の年金や社会保障制度は転換を迫られる。労働者が減れば過去の経済成長のモデルは通用しない。ただ見かたを変えれば、人口爆発の副産物だった環境問題や資源枯渇の危機は和らぐかもしれない。雇用を奪うとの抵抗がある人口知能(AI)などのデジタル技術は、生産性を引き上げ労働力不足を補う大きな手段となる。いち早く人口減に突入した日本にとって改革のチャンスだ。従来の発想を捨て、人口減でも持続成長できる社会に大胆につくり変えられるか。「次の文明システムへの転換期。乗り切るか没落するか分かれ目だ。」歴史人口学者、鬼頭宏前県立静岡大学長は予言する。

人口減は経済への負の影響が大きい。人口予測を前提に企業や消費者は動く、需要も供給も縮小するという予測は国内投資を強く抑制し、社会保障や財政の持続可能性の不安を高める。この負の影響をどう解決すればよいか。人への投資が最も重要だ。

  1. 最先端の科学技術の携わる(STEM)科学・技術・工学・数学の人材の積極的育成、特に女性の参加が遅れている。
  2. 社会人が新しい技術に対応できるように学び直す『リカレント教育』を推進する。
  3. 新しい仕事に就けるようする職業訓練の強化も大切だ。サービス業を中心に新型コロナで仕事を失った人には集中的に支援する。「企業も人こそイノベーションの源泉だと認識し、人材の投資をしっかり実行する。」社員研修を単に増やすだけでなく、どれだけ新たな付加価値を生む人材が育ったか、デジタル化による生産性の向上が実現できたか、投資の成果を見極める必要がある。新しい資本主義実現会議で「人への投資」が議題となった。人そのものの増加策が挙がっているが、人への投資はその成果が大切なのだが。

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