【No.285】低成長を..克服できるか..脱却への課題 日本の選択慶大教授小林慶一郎朝日7月参照
2022.8.22
日本はなぜ低成長が30年間も続いているのか。その要因はいくつかあるが、主に4点あると考えられる。
- 少子高齢化による人口減だ。老後の為の貯蓄が増え、手元にお金を置きたがるため現預金の需要が高まり、デフレ(モノの値段が安くなる)になりやすくなる。少子化を食い止めるための具体的政策とその対応が求められる。21年日本の人口は1億2500万人1億人までに余裕があるから、少子化対策よろしきを得れば、1億人程度で人口減少をストップさせることが可能と考えるかもしれないがそれは無理だ。人口減少を止めるためには、30~40年ごろまでに2.07程度の出生率に引き上げが必要だ。遅れれば人口水準は維持できない。移民の数に大きな変化がなく、引き上げ率が実現できないと1億人の維持どころか転落することになる。政府の出生率は20年1.6程度、30年1.8程度、40年2.07程度という想定だが20年は実積1.33で実現は赤信号だ。政府の楽観的目的のシナリオは人口への危機感を失わせる。変えなければならない政策を変えにくくしている。
- 所得格差の拡大だ。非正規雇用の増加で格差が開き将来の所得が不安定だと、働く人が頑張ってスキルを磨こうとする動機がわかず、生産性も向上しない。OFCD(経済開発協力機構)やIMF(国際通貨基金)の分析でも、格差拡大が経済成長率を押し下げるということが分かっている。岸田政権当初の「分配」によって成長に繋げるとの処方箋は正しい方向だった。減税と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」等是正策の早期の検討が求められる。また課税にかかわる業務をIT化し、所得を把握することで、コロナ禍で急激に所得が落ちたフリーランスの人たちを素早く支援する手立てにもなる。累進制の高い所得税に比べ、富裕層には負担の少ない金融資産課税を強化することも実施に向けて具体化すべきだ。
- 財政への不安だ。財政や社会保障への信頼が揺らいでいることによる将来不安だ。日本財政が将来破綻するかもしれないという不安があると、消費や投資が鈍る。政府債務が国内総生産(GDP)の90%を超えると経済成長率が1%さがるという研究が最近発表された。日本の場合はすでにGDPの2倍を超えている。これについては政府や政治から切り離して財政の長期見通しを論じる独立機関を作るべきだ。例えば米国の議事予算局など欧米ではすでに設立されている。日本では経済財政諮問会議が10年先まで試算しているがそれでは不十分だ。欧米では75年先まで財政の在り方を議論している。財政再建は危機感を持って取り組むべき課題だ。
- 長期化するゼロ金利は異常だ。金利を下げるとその時は投資が増えて景気が良くなるが、低金利が長く続くと成長率が落ちるという研究が最近発表されている。低金利で資産価格が上昇し、企業が工場を建てるための土地価格などのコストが上昇すると、投資が回らなくなる可能性も指摘されている。最初は短期のつもりで導入したゼロ金利がずっと続いている日本は欧米からみても異常。今すぐには金利を上げられなくても3年間で金融政策の正常化に道筋をつけることが大切だ。経済を成長させることも大切だが、コロナ禍で債務が苦しい中小企業は多い。企業を合併・統合で強化した上で債務を減免するべきだ。
賃金上昇へ…労働市場の活性化を
生活必需品中心の物価上昇は、海外では「スクリューフレーション」と呼ばれる。締め付け(スクリュー)と物価上昇(インフレーション)を合わせた造語で、中低所得層ほどく苦しめられる状況を指す。08年のリーマンショツク後の米国では、FRBの大規模な金融緩和などで経済が成長軌道に乗ったが、中間層の給料は伸びず、新興国の経済成長で需要が拡大した食料品やガソリン代などの物価が上昇した。世界的な金融緩和で巨額の投機資金が原油や穀物等の市場に流れ込んだことも要因だ。日本でも生活必需品の物価上昇が続いている。特に食料やガソリンは海外依存度が高く、円安が続いているが当面利上げはできないだろう。しかし消費者の節約志向に変化がみられる。デフレからインフレ転換で値上げ前に買うとなれば、消費は一時的に盛り上がる可能性がある。企業も人材確保のため賃金上昇に動く。消費と賃金の上昇の好循環が期待される。雇用慣行が原因で労働市場は流動性が乏しいが、転職者の所得税の優遇措置等で活性させて流動性を高めることが求められる。